更紗語

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この記事では、架空地図作品である「想像地図・城栄」に関する話が記されています。この記事の内容は架空の世界内における事象であり、現実の地名・人物・団体等とは一切関係ありません

なお、「想像地図・城栄」とは想像地図の人(TANUKI)氏により創作が行われている、架空の土地を想像して描いた地図およびその地図を作ることを趣旨とする創作活動のことです。詳細はここをご覧ください。

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(人工言語としての)更紗語
創案者 想像地図研究所
創案時期 2014年-
話者数 不明
目的による分類
人工言語
表記体系 千織字更紗字
参考言語による分類 アプリオリ言語
言語コード
ISO 639-3 art
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(架空言語としての)更紗語
話される国 城栄国
地域 城栄列島
民族 城栄人
話者数 約1億人
言語系統
初期形式
標準語
方言 更紗語の方言
表記体系 千織字更紗字
公的地位
公用語 城栄国(事実上)
言語コード
ISO 639-3
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更紗語(さらさご)は、泉星城栄列島で話される言語である。

概要

想界における自然言語としての更紗語

想像地図世界(想界)においては、城栄国の事実上の公用語[注釈 1]で話者数1億人の言語であり、更紗語族に含まれる。

現実世界における創作活動としての更紗語

人工言語としての更紗語は、想像地図研究所によって創作が行われている架空言語想像地図架空言語)の1つである。

想像地図・城栄」の舞台となっている城栄国は、地球上の国ではなく泉星という惑星にある国である。地球上でない異世界なら日本語が通じるのはおかしいはずであるが、にもかかわらず「城栄国の地図は地名が日本語で書かれている」という問題が指摘されていた。

そこで、「城栄国では本当は日本語とは異なる言語が話されているが、公開されている想像地図は日本語版であり、本来は更紗語名で呼ばれている地名を全て日本語に翻訳したものである」という解釈(更紗翻訳解釈)が設定として採用されることになった。その「本当は使われている日本語とは異なる言語」が更紗語である。

更紗語は日本語とは発音も単語も文法も文字も、すべてが根本的にまったく異なる言語である。しばしば更紗語が「聞き取りにくい日本語の方言」であるかのような誤解を受けることがあるが、それは間違っている[注釈 2]。母音の種類も異なっており(詳細は後述)、日本語と全く異なる響きを持った言語である。また、アプリオリな架空言語であるため、現実の言語からの単語の流用は原則としてない(偶然の重複はある)。

表記体系としては、千織字(表意文字)と、それを崩して作られた更紗字(表音文字)の2種類の文字が使われているという設定であるが(詳細は後述)、Tanukipediaではその表記を入力できないため、本記事内ではラテン文字に転写した表記を用いる。ただし、ラテン文字はあくまでも「地球人にも発音が分かるための、音を表す記号」として使っているだけであり、更紗語の表記としてラテン文字が使われているという設定は存在しない[注釈 3]

更紗語の創作の流れ

千織語とは異なり現代語から作られる予定であるが、音韻史などはかなり綿密に組み立てた上で音韻設定や造語が行われる見込みである[注釈 4]

更紗翻訳解釈により、現在の日本語版の想像地図に書かれた地名は更紗語の地名を日本語に翻訳したものであると解釈されているが、この「元となった更紗語の地名」を再構するという方向で地名の翻訳作業が行われる。なお、全ての地名が意訳というではなく、音訳も含まれる。例えば「赤松」という地名は更紗語で赤い松を意味する地名を日本語に直訳したもの(意訳型)と解されているが、「日里屋」という地名は更紗語でヒリヤと発音する地名に日本語の地名らしくなるように漢字表記をあてたもの(音訳型)と解されている(詳細は更紗語翻訳地名の類型を参照)。音訳型と意訳型の比率は、9対1とされる。

音訳型の地名において、似たような地形に似たような音が含まれる例を見出せば地形から意味を特定できる。そのことから、一部の単語の造語はこの方法で行われている。それゆえ、更紗語の造語は謎解きという側面も持つことになるため[1]、「言語学オリンピック的である」と表現されることがある[2]

表記体系については、千織語の表記体系である千織字を輸入したという設定を持つため、そちらとも密接に関わる。

言語の製作がある程度まで進捗した段階で、想像地図の地図本体において表示言語を「日本語⇔更紗語」と切り替えができるようにする機能を搭載することが計画されている。また、将来的に出版が計画されている「全城栄道路地図帳」についても、日本語版と更紗語版の2種類を出版する計画がある。

名称について

更紗語は「城栄国で本当は使われている日本語とは異なる言語」であるが、少なくとも日本語の文脈においては、「城栄語」という呼び方はしない[注釈 5]。一方で、更紗語で更紗語のことは「○○○」[未設定]と呼び、これは日本語に直訳すると「城栄語」という意味である。

「Sarasa」という名称は城栄国内に複数箇所ある地名であり(これを日本語に意訳すると「豊かな原」「豊原」などといった意味になる)、それに「更紗語」という漢字が当てられている[注釈 6]

言語の類型的概要

更紗語の音韻は、/N/ および /Q/ を除いて原則として母音で終わる開音節言語としての性格が強い。そして、二次調音(口蓋化・円唇化)の有無による音韻対立があることが大きな特徴として挙げられる。また、標準語(共通語)を含め多くの方言が拍(モーラ)を持つ。アクセントは高低アクセントである。

更紗語固有語は、原則として

  • R音が語頭に立たない
  • 濁音が語頭に立たない

という特徴がある[注釈 7]

語順はSOV型、形態は膠着語に分類される。名詞・動詞ともに複合語が多いことが特徴的。

名詞の格を示すためには、語順や語尾を変化させるのでなく、文法的な機能を示す機能語(助詞)を後ろに付け加えることが原則であるが、一部の名詞は複合語で前側要素になるときと後側要素になるときで母音が交替するほか、語頭の無声音対応する有声音に交替することがある。

人称代名詞は多様に存在し、例えば1人称代名詞は最もよく使われる「nwika」の他にも「nika」「pi」など多数ある。

動詞と助動詞は、原形(終止形)が必ず語尾が -e で終わり、形容詞は原形(終止形)が必ず語尾が -Vi (V は a, i, e, u のいずれかの母音) で終わる。動詞・助動詞・形容詞は名詞とは異なり、語尾を変化させることによって文法的な機能を表す。少数ながら不規則動詞がある。主語の人称によって語尾が変化することはないが、相などは語尾の変化で表される。

語彙は更紗語固有語のほか、千織系語彙、外来語、およびそれらの混ざった混種語に分けられる。千織系語彙は古代・中世の森国から渡来した語およびその派生語彙であり、現代更紗語の語彙の過半数を占める。千織系語彙や外来語は、語頭であってもR音や濁音が現れうる。

表記体系は、千織字と更紗字が主要な文字であり、これらの文字を組み合わせて表記する。

音韻

音節

「(子音)+(拗音)+母音」の開音節および「(子音)+(拗音)+母音+特殊子音」の2種類の音節で構成されるという極めて単純な構造をもつ(括弧内はゼロも可)。最も単純な形の音節は「母音のみ」(例えば /a/ )、最も複雑な形は「子音+拗音+母音+特殊子音」(例えば /myoN/ )である。

ただし、後述するが一部の母音は特定の条件下で弱化・脱落することがあるため、見かけ上はこれ以外の形状の音節も生じうる。

更紗語には拍(モーラ)という音節とは異なる概念があり、1音節ではなく1拍を等しい時間で発音する。

  • 1拍で発音
    • (子音)+(拗音)+短母音
  • 2拍で発音
    • (子音)+(拗音)+短母音+特殊子音
    • (子音)+(拗音)+長母音
    • (子音)+(拗音)+二重母音
  • 3拍で発音
    • (子音)+(拗音)+長母音+特殊子音
    • (子音)+(拗音)+二重母音+特殊子音

ただし、1音節を全て等しい時間で発音するシラビーム方言もあり、八州地方直州地方、そして中葉地方の山間部などに分布する。

アクセント

高低アクセントである。

共通語や南栄方言を初めとして、更紗語の多くの方言のアクセントは「昇り核型」と呼ばれる形式になっている。日本語共通語では核があるところの次の音(アクセントの滝)で低くなる「下げ核型」だが、更紗語共通語はその逆で、核があるところで高くなる[注釈 8]。この核の位置を「核位置n」(nは0以上の整数)で表す。高くなった後はそのまま語末およびその直後に後続する格助詞も高いままである。

1拍語の場合、無核の場合(核位置0)と第1拍に核がある場合(核位置1)の2通りがある。核位置0の場合、その単語と直後の格助詞をともに高く発音する。核位置1の場合、その単語自体は低く発音し、後続する格助詞を高く発音する。ただし、言いきりの場合は核位置0と同じアクセントになる。

2拍語の場合、無核の場合(核位置0)と第1拍に核がある場合(核位置1)と第2拍に核がある場合(核位置2)の3通りがある。核位置0の場合、第1拍・第2拍と直後の格助詞を全て高く発音する。核位置1の場合、第1拍は低く発音し、第2拍から高くなり、後続する格助詞も高いまま発音する。核位置2の場合、第1拍・第2拍ともに低く発音し、後続する格助詞から高く発音する。ただし、言いきりの場合は核位置1と同じアクセントになる。

母音

更紗語の母音三角形

母音は a, i, e, u, o の5種類あり、いずれも長短の区別がある。短母音は1モーラで、長母音は2モーラで発音する。

前舌 中舌 後舌
/i/ [i] /u/ [u]
中央 /e/ [ə] /o/ [o]
/a/ [a]

/e/日本語の「え」の音とは随分と音色が異なっており[注釈 9]、どちらかと言えば中国語のピンインの e に近い。また、/u/ は日本語共通語にみられる [ɯ] ではなく、口をすぼませる [u] の音である。 /e//u/ がエとウになってしまわないように注意する必要がある。

母音 e, i, u は無声化が起こる場合があり、無声子音に挟まれた場合や語末で弱化・脱落することがある。

異なる2つの母音が連続した場合、二重母音として発音されることが多い。しかし、それを2つの音節に区切って単なる母音連続として発音するかは、(南栄方言においては)意味の弁別には影響しない。ただし一部の方言では二重母音が融合するものがある。

子音

破裂音 破擦音 摩擦音 鼻音 接近音 流音
無声 有声 無声 有声 無声 有声
両唇音 /p/ [p] /b/ [b] (/f/ [ɸ]) /m/ [m]
歯茎音 /t/ [t] /d/ [d] /s/ [s] /z/ [z] /n/ [n] /r/ [r]
後部歯茎音 /c/ [tɕ] (/j/ [dʑ]) /x/ [ɕ] /j/ [ʑ]


軟口蓋音 /k/ [k] /g/ [ɡ] /w/ [w]
硬口蓋音 (/h/ [ç]) /y/ [j]
声門音 /h/ [h]

この他に、特殊子音の2種

  • /N/ 後続する子音と同じ調音位置の鼻音、または [n]
  • /Q/ 後続する子音と同じ子音、または声門閉鎖音 [ʔ]

が音素として存在し、1モーラを形成する。なお /N//Q/ は、共通語では語頭には表れない。

丸括弧内は異音であり、出現位置によって以下のような音になる。

  • /h/
    • 直後に母音iまたは[要検証]拗音yが現れる場合 [ç]
    • 直後に母音uまたは[要検証]拗音wが現れる場合 [ɸ]
    • 上記以外 [h]
  • /j/
    • 語頭 [dʑ]
    • 語中・語尾 [ʑ]

/yi/ [ji] という音節は存在し、/i/ [i] とは区別される。一方で /wu/ [wu] という音節は存在しない。

拗音

  • /y/ [j]
  • /w/ [w]

による2種類の拗音(二次調音)、すなわち口蓋化と円唇化の有無による音韻対立がある。

/y/ の直後には5母音全てが現れうる。 /w/ の直後にuを除く4母音が現れうる。ただし、 /x/, /j/, /c/ は口蓋化と円唇化の有無による音韻対立がない。

従って、例えば /ma/ [ma]/mya/ [mʲa]/mwa/ [mʷa] は、別の音韻として認識される[注釈 10][注釈 11]

日本語(共通語)の拗音は /y/ の1種類のみで、直後に現れうる母音は /a/ /u/ /o/ の3種類に限られる。一方、更紗語では拗音が /y//w/ の2種類あり、拗音の直後に(wuとなる組合せを除いて)5母音全てが現れうる。 /me/ [mə]/mye/ [mʲə] が対立することはもちろんだが、 /mi/ [mi]/myi/ [mʲi] も別の音と認識される(無論、/mwi/ [mʷi] も別の音と認識される)。

連音

末尾が/N/で終わる単語の直後に、語頭が母音で始まる単語が並んだ場合でも、連音とはならず別々に発音する。

古代から現代への発音の変化

現代更紗語の母音は /a/[a], /i/[i], /e/[ə], /u/[u], /o/[o] の5種類であるが、古代においては母音の数は5種類ではなく、6種類であった期間が長かったと考えられている[3]

更紗祖語

母音は *a, *i, *ə, *u, *o, *e の6種類だったと考えられる。子音は、更紗祖語の時点において、既に口蓋化の有無・円唇化の有無による対立があったと考えられる[4]

後期更紗祖語

短母音の *o, *e が特定条件下で高舌化(MVR)し、それぞれ *u, *i になったが、一部の単語では残存したため短母音は *a, *i, *ə, *u, *o, *e の6種類のまま変わらなかった。一方、この時代においては *ai, *ia, *au, *ua, *iu, *eu, *oi, *ui など、多様な二重母音が存在していたと考えられる。

前期上代更紗語

二重母音が、以下の表に示したように変化した。

変化前 変化後
語中 語末
*ai *a *e
*ia *e
*au *a *o (*ɔ)[注釈 12]
*ua *ʷo
*iu *i *ʲu (*y)[注釈 13]
*əu *u

前述の二重母音の変化は、上昇二重母音の場合、語中と語末で同じ変化だった。しかし、下降二重母音の場合、語中では後側の母音が脱落し、語末では融合するというというように、置かれた環境によって異なる変化を起こした。そのため、語末に下降二重母音を持っていた形態素が、複合語の語中や語頭にある場合と語末にある場合とで語形が異なるという単語が生じるきっかけとなった。これが更紗語の被覆形と露出形の起源であると考えられている。

融合の結果によって短母音が *a, *i, *ə, *u, *o, *e, *ɔ, *y の8種類となったという説もあるが、後の時代の音韻変化と符合しない。そのため融合後も母音の総数は6のままで変わらなかったと考えられる。

また、同時期に /dy/ [dʲ]/dj/ [dʒ] が合流したと考えられる。

後期上代更紗語

以下に示す子音の組合せが合流した[注釈 14]

  • /sy/ [sʲ]/x/ [ɕ]
  • /zy/ [zʲ]/j/ [ʒ]/dy/ [dʲ]
  • /ty/ [tʲ]/c/ [tɕ]
  • /hw/ [hʷ]/f/ [ɸ] (および /hu/ [hu]/fu/ [ɸu]

これらは後期上代まではかき分けが行われていたが、後の時代では混同されるようになった。

ただし、上代頃まで /x/ /j/ /c/ については、そり舌音系統の音で発音されていた可能性がある[要検証]

前期中世更紗語

以下の表のように母音が合流し、短母音として区別されるのは現在の5母音(a, i, ə, u, o)となった。この変化によって、日本語のエにあたる音が失われてəに統合した

二重母音の融合も発生し、この頃から母音の長短を区別するようになってきたと考えられる。

変化前 変化後
短母音 *a a
*i i
ə
*e
*u u
*o o
二重母音 *oi ʷəː
*ui ʷiː

後期中世更紗語

母音の間に挟まれた *g および *h が脱落し、二重母音や長母音が大量に生じた。ただしこの変化は、千織語由来の単語であって千織字毎に区切って読むことが規範とされている語では起こりにくかったとされる[要詳細再考察]。一方で、母音 u の直前の場合と、 *gʲ, *gʷ, *hʲ, *hʷ のように二次調音を伴っている場合は、母音の間に挟まれていても脱落せず残存した。

近世更紗語

円唇化した軟口蓋音である ɡʷ 、および母音 u の直前にある kɡ が、唇音の影響で調音点が唇に移動することにより、それぞれ 、および pb となった[注釈 15]。なお、更紗語におけるこの音韻変化は「クヮ行転呼」あるいは「唇音化推移」と称される。

なお、この発音の変化により更紗語から /ku/ という音節が姿を消したが、後に外国語からの借用からの影響により /ku/ という音節を再獲得している[注釈 16]

文字

更紗語の文章は、千織字・沢文字・肘文字を組み合わせて表記される。

千織字

千織字は、千織語の表記に使われる表意文字であるが、字音とともに更紗語に借用された。

千織語と更紗語は全く異なる起源を持つ言語であり、千織字は字音を表すのみならず更紗語固有語の読み方を表す「訓読み」も行われている。更紗語固有語では1つの概念だったものも、千織字の書き分けで区別される事例がある。逆に、1つの千織字が複数の意味を持つ場合、更紗語固有語による「訓読み」が複数個存在する場合がある。こういった歴史的経緯から、千織語において表語文字的に使われる千織字は、更紗語では表意文字としての性質が強いものとなっている。

更紗字

更紗字は、千織字の崩し字を起源とする文字で、表音文字である。基本的には1つの文字が1つの音節を表す音節文字である。更紗字には「沢文字」と「肘文字」(いずれも仮称)の2種類の系統があり、後者は主に外来語を表記するときに使用される。

1文字が1拍1音節を表すことが原則であるが、以下のような場合は例外である。

  • 拗音の場合
2文字で1拍1音節を表す。
例えば /mwa/ という音節を表すときは、「/mu/を表す文字」と「/wa/を表す文字」を組み合わせて表記する。そのままでは /muwa/ という2音節と同じ表記になってしまうため、「/wa/を表す文字」を小書きすることで両者を区別する。また、 /myi/ という音節を表すときは、「/mi/を表す文字」と「/yi/を表す文字の小書き」の2文字で表記する。
  • 二重母音の場合
2文字で2拍1音節を表す。
例えば /kai/ という音節を表すときは、「/ka/を表す文字」と「/i/を表す文字」の2文字で表記する。なお、この場合は「/i/を表す文字」を小書きにすることはしない[注釈 17]
  • /N/または/Q/で終わる閉音節の場合
2文字で2拍1音節を表す。
例えば /taN/ という音節を表すときは、「/ta/を表す文字」と「/N/を表す文字」の2文字で表記する。 /miQ/ という音節を表すときは、「/mi/を表す文字」と「/Q/を表す文字」の2文字で表記する。
  • 長母音の場合
2文字で2拍1音節を表す。
例えば /taa/ という音節を表すときは、沢文字の場合は「/ta/を表す文字」と「/a/を表す文字」の2文字で表記し、肘文字の場合は「/ta/を表す文字」と「/H/を表す文字(長音符号)」の2文字で表記する。
  • 拗音で、かつ/N/または/Q/で終わる閉音節の場合
3文字で2拍1音節を表す。
例えば /myoN/ という音節を表すときは、「/mi/を表す文字」と「/yo/を表す文字の小書き」と「/N/を表す文字」の3文字で表記する。

ちなみに、濁音を表す文字は、清音を表す文字に濁音記号を加えた形状になっている。例えば、「/da/を表す文字」は、「/ta/を表す文字」に濁音記号を加えた形状である。

更紗字は表音文字であるため、発音するとおりに表記することが原則である。かつては、中世や近世の発音の変化を反映していない表記(旧更紗字遣い)が使われており、同じ発音でも違う表記がされることがあった。しかし、戦後に行われた正書法の改訂により、発音に即した更紗字を用いることとなった(現代更紗字遣い)。ただし、後述する後置詞(格標識)のみは例外で、ここにだけ旧式の表記(旧更紗字遣い)が残されている。例えば、目的格を表す後置詞は、「/ha/を表す更紗字」で表記されるためこれをラテン文字に転写すると /ha/ となるが、実際はこの更紗字は /a/ と発音する[注釈 18]。また、向格を表す後置詞は、更紗字の表記をラテン文字に転写すると /kwore/ となるが、実際には /pwore/ と発音する[注釈 19]

なお、アクセントは、文字には表記されない。また、更紗語では母音 e, i, u は無声化が起こる場合があり、無声子音に挟まれた場合や語末で弱化・脱落することがあるが、無声化の有無は文字には反映されない[注釈 20]

/ku/ については、近世更紗語で /ku/→/pu/ という変化が起こったことによって、 /ku/ という音はいったん更紗語から姿を消した。従って、「従来/ku/を表していた更紗字」は、後置詞の場合を除いて、全て 「/pu/を表す更紗字」に置き換えられている。なお、近年になって外国語から借用された語の影響で /ku/ の音が再獲得されているが、それを表す場合は「従来 /ku/を表していた更紗字」を使うのではなく、「/ke/を表す更紗字」+「/u/を表す更紗字の小書き」の2文字を組み合わせて表記する。また、 /kwV/ についても同様の音韻変化で一旦は姿を消したが、同様に借用語の影響で再獲得されている。これを表す場合は、やはり「従来 /ku/を表していた更紗字」+「/wV/を表す更紗字の小書き」ではなく、「/ke/を表す更紗字」+「/wV/を表す更紗字の小書き」の2文字を組み合わせて表記する。

Tanukipediaにおいては

Tanukipediaでは千織字や更紗字を入力できないため、本記事内ではラテン文字に転写した表記を用いているが、ラテン文字はあくまでも「地球人にも発音が分かるための、音を表す記号」として使っているだけであり、更紗語の表記としてラテン文字が使われているという設定は存在しないことに留意する必要がある。

なお、Tanukipediaでは現代更紗字遣いをラテン文字に転写したものを用いることが標準的であるが、例外的に、「後置詞」をラテン文字に転写する場合に限っては、旧更紗字遣いをラテン文字に転写したものを用いることが標準的になっている。

また、(後期上代更紗語までに合流したため)現代更紗字遣いどころか旧更紗字遣いでも区別されない以下の組み合わせ

  • /sy/ [sʲ]/x/ [ɕ]
  • /zy/ [zʲ]/j/ [ʒ]/dy/ [dʲ]
  • /ty/ [tʲ]/c/ [tɕ]
  • /hw/ [hʷ]/f/ [ɸ] (および /hu/ [hu]/fu/ [ɸu]

についても、ラテン文字転写では何故か区別して表記されることが謎の慣習[注釈 21]になっており、更紗語辞書でも同様に区別されている。その一方で、

  • 前期上代更紗語で合流した「/dy/ [dʲ]/dj/ [dʒ]
  • 前期中世更紗語で合流した「/ə/ [ə]/e/ [e]
  • 近世更紗語で合流した「」および「ɡʷ」(母音 u の直前における「kp」および「ɡb」を含む。ただし例外的に後置詞は区別を残している。)

の組み合わせについては更紗語辞書で区別されていない。

  • 語順は SOV 型。
    • 主題優勢言語であり、統語的に主語の存在は必須ではない。文脈により明らかな場合は、主語が省略される場合も多い。
    • 形容詞・属格などの修飾語句は前置する AN・GN 型。
  • 膠着語で、後置詞によって名詞の格を表す。
    • 文脈により明らかな場合において、後置詞が省略される場合があるが、この用法は「使わないことが規範的である」とされている。
  • 名詞の格は後置詞によって表され、名詞は語形変化しない。
  • 文の種類は、大雑把に言えば名詞文・動詞文・形容詞文に分類できる。
  • 動詞・助動詞・形容詞の相・態・時制は、語形変化により表される。名詞が語形変化しないこととは対照的に、動詞・助動詞・形容詞は母音交替を伴うダイナミックな語形変化を起こす。
    • 動詞と助動詞は、原形(終止形)が必ず語尾が -e で終わり、形容詞は原形(終止形)が必ず語尾が -Vi (V は a, i, e, u のいずれかの母音) で終わる。動詞・助動詞・形容詞は名詞とは異なり、語尾を変化させることによって文法的な機能を表す。主語の人称によって語尾が変化することはないが、相などは語尾の変化で表される。
    • 動詞を繰り返し表現することで主語が複数であること表すことができる。数を表すことは義務的でない。
    • 形容詞には語幹用法があり、複合語の形態素になる。

名詞文

名詞文は「…は~である」「…は~です」という文である。

  • Nwika-pu Kyinwo bose.
訳「私は山田です。」

動詞文

動詞文は「…は~する」という文である。

  • kaxu-ju iyare.
訳「木が生える。」
  • kaxu-ju iya-iyare.
訳「木々が生える。」(直訳「木が生え生える。」)[注釈 22]
  • kaxu-ju iyamai.
訳「木が生えない。」

形容詞文

形容詞文は「…は~い」という文である。

  • xi-ju anai.
訳「口が大きい。」
  • xi-ju anapemai.
訳「口が大きくない。」

単語

主な語彙

意味 語彙 形態素として含む地名
意訳地名 音訳地名
大きい ana anaiya(大生 anamwi(穴見
kyi kyimwi(山崎 kyinwa(絹和
mwa mwasa(川原 hwasemwa(蓮間
a(被覆形)
e(露出形)
ahyatu(海野 ado(阿土
xi[注釈 23] mwaji(川口
※連濁
 
aa aatasi(赤松  
植物 iya anaiya(大生) hwiriiya(日里屋
pya[注釈 24] hwokiribya(岡葉
※連濁
 
高い tyama(被覆形)
tomo(露出形)
tomojohwa(たけべ  
swa swanwo(道田  

名詞

更紗語の名詞は、格の変化などによって語形が変わることはないのが原則であり、格は後述する後置詞を名詞の後ろに置くことによって示される。ただし、一部の単語は、複合語の前側の形態素になる場合と、単独あるいは複合語の後側の形態素になる場合とで語形が変わる(母音が交替する)ものがあり、これは被覆形と露出形と呼ばれる。このような単語では、被覆形は属格のように意識されることがある。また、複合語で後ろ側の形態素は、語頭の無声子音が対応する有声子音に交替することがあり、これは連濁と称される。

更紗語の名詞は1音節の形態素が非常に多く、語彙はそれらの組み合わせによって作られた複合語が非常に多い。もはや単一の形態素として意識されている語であっても、歴史的には複合語としての起源を持つ単語が多く存在する。例えば、 areo「港」は a「海」+ re(属格後置詞)+ o「入口、門」の3つの形態素が複合したものであるが、現代においてはこれが複合語であることはほとんど意識されない。

動詞

更紗語の動詞は、原形(終止形)が必ず語尾が -e で終わる。語尾を変化させることによって文法的な機能を表す。名詞が基本的に曲用せず語形が変わらないことが原則であるが、それとは対照的に、動詞は活用し、母音交替を起こすなど語形変化に富んでいる。

動詞にも複合語が多く存在する。複数の動詞が複合したものの他に、「名詞+動詞」が1つの動詞として機能するようになったものが多く存在する。借用語の名詞が動詞として使われる場合、「名詞+fure」という形になることが多い。あるいは、固有語の場合でも元は動詞として使われていなかった名詞について、「名詞+fure」という形で動詞として使われるものがある。

更紗語の動詞はその大部分において、自動詞と他動詞の区別が厳格である。例えば、iyare(生える)という動詞は「生える」という自動詞の意味でしか使われず、「生やす」という他動詞の意味では使われない。また、nata(住む)という動詞も「住む」という自動詞の意味でしか使われず、「住まわせる」という他動詞の意味に用いることはできない。一方で、固有語由来ではなく借用語由来の「名詞+fure」という形の動詞は、自動詞にも他動詞にも用いられる動詞が多くある。

現代更紗語における動詞の活用

現代更紗語における動詞の活用は、以下の類型がある。

  • 子音語幹(五段活用)
    • 通常子音語幹
    • 口蓋化子音語幹
    • 円唇化子音語幹
  • 母音語幹(一段活用)
  • 不規則(変格活用)

このうち、語幹末の音が口蓋化または円唇化している動詞(口蓋化子音語幹・円唇化子音語幹、およびCy行・Cw行の頂一段・底一段)は、拗音活用動詞と分類される場合がある。すなわち、日本語にはない「ニャ行五段活用」というものが更紗語には存在する。一方で(拗音ではない、裸の)yとwが語幹末に現れる子音語幹動詞は存在しない。言い換えると、「ヤ行五段活用」および「ワ行五段活用」は更紗語に存在しない[注釈 27]

不規則動詞(変格活用)の動詞は、複合語の形態素となっているものを除外すれば、たった2種類しかない。語末が-re以外で終わる動詞は、全て子音語幹動詞である。一方で、語末が-reで終わる動詞は、子音語幹の場合も母音語幹の場合も不規則動詞の場合もあるため、単語毎に覚える必要がある。

なお、複数の動詞が結びついてできた複合動詞は、後ろ側の動詞の活用の類型に従って活用する。例えば、「子音語幹+母音語幹」の形の複合動詞は、母音語幹として活用し、「母音語幹+子音語幹」の形の複合動詞は、子音語幹として活用する。

ちなみに、子音語幹動詞が五段活用となっているのは更紗語も母音が5個だからと考えられている。

古典更紗語における動詞の活用

古典更紗語における動詞の活用は、上記に挙げた現代更紗語の動詞の活用に加えて、子音語幹と母音語幹の中間的な振る舞いをする「底中二段活用」という活用があった。活用語尾にeとoの2種類の母音が現れる。

この類型は後に底一段(o幹)に変化した。逆に、現代更紗語の底一段(o幹)動詞は、大部分がこの底中二段活用に遡る。底中二段活用は更紗祖語においては二重母音語幹動詞であったと考えられている[要検証]

活用形の名称

日本語と同じ名前の活用形もあるが、異なる名前のものもある。

更紗語動詞の活用形
活用形名 意味と機能
未然形 否定の助動詞 (i)mai を接続することで「~しない」の意味を表す。
連用形 丁寧の助動詞 (a)se を接続することで「~します」の意味を表す。
名詞や他の動詞を接続することで複合語を作る。
また、単体では動名詞として使われることがある[注釈 28]
接続形と称する場合もある。
原形 語尾が変化していない基本の形。「~する」の意味を表す。
不定形と称する場合もある。
仮定形 仮定の助詞 (u)ji を接続することで「~すれば」の意味を表す。
後に何も接続しなければ命令形「~しろ」の意味を表す。
譲歩形と称する場合もある。
勧誘形 勧誘の助詞 o を接続することで「~しよう」の意味を表す。

子音語幹動詞

子音語幹動詞は、活用形に更紗語の5種類の母音が全て現れる。3種類の類型に分類されるが、いずれも、未然形にi, 連用形にa, 原形にe, 仮定形にu, 勧誘形にoが現れる。

通常子音語幹動詞

原形の語尾が -Ce (Cはw,y以外の任意の子音、または∅)で、-C の後ろ側が変化する。

nate(住む)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 nat-i(mai) 住まない
連用形 nat-a(se) 住みます
原形 nat-(e) 住む
仮定形 nat-u(ji) 住めば
勧誘形 nat-o 住もう

ただし、語幹末の子音がrもしくはnの場合、未然形は音便化した形を用いることが通例である。上記の規則に従って未然形が「ri」もしくは「ni」となる場合、そこが「N」となる。例えば、「wire」(なる)の未然形は、「wirimai」となるが、実際には音便化した「wiNmai」が使われる。

口蓋化子音語幹動詞

原形の語尾が -Cye (Cはyとwを除く子音)で、-y の後ろ側が変化する。

agye(あふれる)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 agy-i(mai) あふれない
連用形 agy-a(se) あふれます
原形 agy-(e) あふれる
仮定形 agy-u(ji) あふれれば
勧誘形 agy-o あふれよう

なお、「byを語幹とする五段動詞」は存在しない。これは後述する「bye/mye」と紛らわしいため、避けられたからであるとする説がある。

円唇化子音語幹動詞

原形の語尾が -Cwe (Cはyとwを除く子音)で、-w の後ろ側が変化する。


母音語幹動詞

頭一段(a幹)

原形の語尾が -are で、-a の後ろ側が変化する。

iyare(生える)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 iya-(mai) 生えない
連用形 iya-(se) 生えます
原形 iya-r(e) 生える
仮定形 iya-r(uji) 生えれば
勧誘形 iya-wo 生えよう

なお、「fare(hware)を語幹とする頭一段動詞」は存在しない。後述する不規則動詞のfureと相補分布しているとする説がある。

底一段(o幹)

原形の語尾が -ore で、-o の後ろ側が変化する。

pore(肥える)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 po-(mai) 肥えない
連用形 po-(se) 肥えます
原形 po-r(e) 肥える
仮定形 po-r(uji) 肥えれば
勧誘形 po-wo 肥えよう

不規則動詞

他の動詞とは異なり全く異なった変化をする。fure(する)・nure(行く)の2語とその複合語のみ。

fure(する)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 fa-(mai) しない
連用形 fa-(se) します
原形 fu-r(e) する
仮定形 fu-r(uji) すれば
勧誘形 fa-wo しよう


nure(行く)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 na-(mai) 行かない
連用形 ne-(se) 行きます
原形 nu-r(e) 行く
仮定形 nu-ru(ji) 行けば
勧誘形 na(wo) 行こう

中底二段

現代では底一段に変化した。古典に見られる活用。原形の語尾が -Ce (Cはw,y以外の任意の子音、または∅)で、-C の後ろ側が変化する[要検証]

pe(肥ゆ)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 po-(bye) 肥えず
連用形 po-(se) 肥えます
原形 pe 肥ゆ
仮定形 pe-r(uji) 肥ゆれば
勧誘形 po-wo 肥えよう

動詞の否定形

未然形に助動詞「mai」もしくは「bye/mye」を接続することで表現する。後者はやや古風な印象を与えるが、現代でも広く使われている。なお、前者は古典では使われておらず、元は南栄方言で使われ始めた表現法が広まったものとされる。

例:

  • nate(住む) - natimai(住まない)
  • seme(合う) - semimai(合わない)
  • iyare(生える) - iyamai(生えない)

動詞の過去形

過去形は過去を表す語尾「-sa」によって表される。この語尾は、

  • 語幹末の子音が摩擦音の場合、子音を外して -sa をつける(例:原形 as-e・語幹 as- → sを削除して a-sa とする)
  • 語幹末の子音が閉鎖音の場合、
    • 口蓋音ないし口蓋化音の場合、iを挿入して -sa をつける(例:原形 ak-e・語幹 ak- → iを挿入して ak-i-sa とする)
    • 両唇音ないし円唇化音の場合、uを挿入して -sa をつける(例:原形 ap-e・語幹 ap- → uを挿入して ap-u-sa とする)
    • 歯茎音の場合、 -sa の s が脱落する(例:原形 at-e・語幹 at- → ata とする)
  • 語幹末が母音(頭一段および底一段)の場合、語幹末にそのまま -sa をつける

従って、過去を表す語尾「-sa」は、

  • 語幹の子音が閉鎖音の場合
    • 両唇音の通常子音語幹、ないし円唇化子音語幹では、仮定形に接続
    • 口蓋音の通常子音語幹、ないし口蓋化子音語幹では、未然形に接続
  • それ以外は、連用形に接続

と言い換えることができる。

可能表現

子音語幹動詞(五段活用)の場合、可能動詞語尾「-ore」を接続することによって表される。

母音語幹動詞および不規則動詞の場合、可能動詞は存在しないとされる。しかし、俗語としては動詞の原形の語末の「-e」を「-ore」に変えた形が用いられることがあり、広く使用されている。しかし、南栄方言話者を中心にこの用法が「間違った更紗語」あるいは「更紗語の乱れ」であると考える人が居る。

受身表現

使役助詞「-(ri)rore」を未然形に接続することによって表される。子音語幹動詞(五段活用)の場合は「-rore」、母音語幹動詞の場合は「-rirore」を接続する。なお、この動詞が接続した形は、母音語幹動詞として活用する。

例:

  • pubare(食べる) - pubarirore(食べられる)

なお更紗語には「被害の受身・はた迷惑の受身」と呼ばれる表現方法があり、日本語の「雨に降られる」という類の表現は更紗語でも行うことができる。

使役表現

使役助詞「-(fa)fore」を未然形に接続することによって表される。子音語幹動詞(五段活用)の場合は「-fore」、母音語幹動詞の場合は「-fafore」を接続する。なお、この動詞が接続した形は、母音語幹動詞として活用する。

例:

  • nate(住む) - natifore(住ませる)

自動詞と他動詞の対応

既に述べたとおり、更紗語の動詞の大部分において、自動詞と他動詞の区別が厳格である。しかし、自動詞と他動詞の対応は、一応は幾つかの類型に分類することができるものの、かなり不規則な対応となっている。

  • seme(合う) - semifore(合わせる)
  • pore(肥える) - pufe(肥やす)


形容詞

形容詞も動詞と同様に、活用によって語尾の変化が生じる。

更紗語の形容詞は、原形の語尾が必ず-Viとなる。このVはa,i,e,uのいずれかの母音であり、共通語では-oiという語尾を持つ形容詞は存在しない。このうち、語尾が -ai, -ei, -ui のものを二重母音型、語尾が -ii のものを長母音型と称する。

二重母音型

anai(大きい)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 ana-pe(mai) 大きくない
連体形 anai 大きい(もの)
原形 anai 大きい
仮定形 ana-pu-ji 大きければ

長母音型

aayii(赤い)の活用
活用形名 活用形 意味
未然形 aayi-pe(mai) 赤くない
連体形 aayii 赤い(もの)
原形 aayii 赤い
仮定形 aayi-pu-ji 赤ければ

形容詞の否定形

動詞の否定形と同じく、未然形に助動詞「mai」を接続することで表現する。

例:

  • anai(大きい) - ana-pemai(大きくない)
  • aayii(赤い) - aayi-pemai(赤くない)

形容詞の現代と古代における相違点

現代では形容詞の原形と連体形が同形となっているが、古代では互いに異なっていた。特に長母音型では、その差が顕著になる。

  • 二重母音型 「大きい」→ 原形 anayi・連体形 anapi
  • 長母音型 「赤い」→ 原形 ahayi・連体形 ahayipi

また、未然形には現代の -pe のみならず -pi という形があり、否定形は -pi(bye) という形が使われていた。

なお、「赤」は古形はahaであり、先述したとおり、後期中世更紗語時代に起きた変化により語中のhが脱落し、aaとなっている。従って、「赤い」の古形は、aayiではなく、ahayiであることに注意する必要がある。

後置詞

更紗語において名詞は原則として屈折せず、格は後置詞によって表される。なお、この後置詞は日本語の格助詞とほぼ同じ働きをするため、更紗語においても「格助詞」と称する場合がある。

更紗語の主な後置詞
後置詞 格・意味 例文 備考
pu は(主格) Nwika-pu Kyinwo-bose.
山田です。
ju が(主格)
ri の(属格) Yuna-ri torisawa-pu sako-dopumai.
手の平は嫌いではない。
do で(具格)
ha
(a)
を(対格) Cifu-ha nyasa.
見た。
haと表記するが /a/ と発音するため、
「a」と転写する場合がある。
wi に(処格) Kyido-wi irase.
山側あります。
hixi
(ixi)
から(奪格) Aatasi-hixi tomojohwa-kwore nure.
赤松からたけべまで行く。
hixiと表記するが /ixi/ と発音するため、
「ixi」と転写する場合がある。
kwore
(pwore)
まで(向格) kworeと表記するが /pwore/ と発音するため、
「pwore」と転写する場合がある。
xo へ(向格)

総じて日本語や韓国語の格助詞と似た使い方になっているが、一致しないものもあることに注意する必要がある。例えば、「道を行く」と表現する場合、日本語では「を(対格)」を用いるが、更紗語では「wi(処格)」を用いて「Swa-wi nure.」とするなど、必ずしも日本語や韓国語の逐語訳となるわけではない。

なお、対格の「ha (a)」、奪格の「hixi (ixi)」、および向格の「kwore (pwore)」については、先述した歴史的な音韻変化により、古くはそれぞれ [ha] /ha/ , [hiɕi] /hixi/ , および [kʷorə] /kwore/ と発音されていたものが、それぞれ [a] /a/ , [iɕi] /ixi/ , および [pʷorə] /pwore/ に変化した[注釈 29]。発音の変化によって表記との乖離が大きくなったものについては、後の時代に正書法が改訂されたが、後置詞は例外的に「後置詞であることを明示するため」に更紗字では旧式の発音に基づいた表記が伝統的に残されている。これをラテン文字に転写する場合、更紗字の表記に基づいて転写するなら、それぞれ「ha」「hixi」「kwore」となるが、発音に基づいて転写するなら、それぞれ「a」「ixi」「pwore」となるが[注釈 30]、後置詞であることを明示する目的で、更紗字の表記に基づいて転写する「ha」「hixi」「kwore」という表記を使うことが多い(このため、しばしばラテン文字転写の通りに発音してしまうということが起こりがちである)。

また、後置詞は必ず名詞の後ろに結びついて使われ、語頭に表出することは基本的にないため、「固有語は原則的には語頭が濁音やR音が現れない」という規則の規則の例外であるとは見なされていない。

数詞

固有語の数詞と、千織系語彙(字音)由来の数詞の2種類が使われており、日常的には後者の方がよく使われる。

固有語の数詞は、更紗語の5母音の内 a,i,e,u の4種類のみが現れ、 o が現れることはない(ただし、字音語の数詞には o も現れる)。

(なお、空欄部分は未観測部分である)

更紗語の数詞
固有語 字音語
1 myu-ke
2 myi-ka
3 ye
4 pwi
5 u-sa
6 ya
7 tu
8 pu
9 hi
10 si
100 mwe
1000 ta co

方言

北方方言・中北部方言・東部方言・中南部方言・首都圏方言・南東部方言・南西部方言などに大別される方言連続体をなしている。標準語は首都圏方言の一種である南栄方言

南西部の方言については貫州の方言との差異が大きいため、「更紗語族の別の言語」として扱われることが多い[注釈 31]

なお、北陽道の先住民族(ヘツクース人)の言語であるヘツクース語は、更紗語とは系統的に全く異なる言語であり、更紗語の方言ではない。城栄国と海を挟んで隣り合う千織国千織語は、使われる文字が千織字という共通点はあるものの、やはりこちらも系統的には全く異なる言語である。

創作・作業の沿革

2014年3月31日、「想像地図・城栄」の言語に関する設定における「ご都合主義的」な部分をなくすという構想である「想像地図第五期構想」が浮上し、中国語風と日本語風の2種類の架空言語を創作する構想が持ち上がった[5]。中国語風の架空言語については2014年8月17日に創作が開始されたが、日本語風の架空言語は(音韻を除いて)未着手であった。

2014年10月20日、中国語風と日本語風の2種類の架空言語はそれぞれ千織語および更紗語と命名された。

千織語は2014年の製作開始から何度かの休止期間を経て活発に創作が続けられる一方、更紗語は構想止まりであった。これは、現実の日本語が中国語から文字や語彙を取り入れたことと同様に、更紗語も千織語から文字や語彙を取り入れることで作られるからで、そのため、更紗語の実際の製作は、千織語が完成に近づいてから行われることとなっていた。しかし、2015年8月23日高樹の決断により千織語製作の一時凍結が宣言されたことによって、「千織語の完成を前提とする更紗語」も当然ながら製作停止となった。

ところが、2019年5月、千織語製作を再開するための道が開ける可能性が示され、更紗語についても政策が始まる機運が高まった。そして2019年11月24日の架空言語・架空地図学会の後に行われた会議により、想像地図研究所に新規メンバーが加入することにより、更紗語製作を行うことが再計画され、更紗語製作は再開された。

2020年6月にはMirahezeに更紗語辞典が開設された。2021年1月にはZpDIC更紗語辞書(仮)が設置された。2021年4月現在では、ZpDIC版の更紗語辞書の方が単語集録数は多い。

2023年には、更紗語の存在が書籍[6]および地上波[7]で扱われた。

注釈

  1. 城栄国には公用語を規定する法律がないが、あらゆる法律の条文は更紗語で表記されるため「事実上の公用語」ということになる。
  2. 例えば「Chakuwiki:もし日本語が全てあの口調だったら」では更紗語が日本語の方言あるいは変種であるかのような誤解を前提とした立項が行われている。しかし、更紗語が全く根本的に日本語と異なる言語である限り、「もし日本の公用語が更紗語だったら」ならともかく、「もし日本語が全て更紗語の口調だったら」という仮定は、そもそも仮定することすらできないだろう。
  3. 想界にはラテン文字も存在しない。
  4. 更紗祖語(仮称)の内的再構が可能であることが望ましいとされている。
  5. 日本語の文脈内で「城栄語」という呼び方をしてしまうと更紗翻訳解釈採用前の言語設定と紛らわしいためそのような呼び方はしないことが原則である。
  6. 漢字表記は音訳である。
  7. 固有語であっても、一部例外的にR音や濁音が語頭に現れる単語が存在するが、そのような単語は少ない。一方で、借用語にはR音や濁音が語頭に現れうる。
  8. この影響により、アクセントの位置のみで区別できる単語の組合せは、日本語よりも少なくなる。
  9. 日本語の「え」の音は前舌中央母音だが、更紗語の /e/中舌中央母音である。更紗語には、日本語の「え」の音にあたる母音は存在しない。
  10. 日本語は口蓋化の有無( /ma/ [ma]/mya/ [mʲa] )による二項対立のみだが、更紗語は /ma/ [ma]/mya/ [mʲa]/mwa/ [mʷa] の三項対立である。m以外の子音に対しても同様に三項対立となるが、例外的に「/kw/ + 母音」は、元は「[kʷ] + 母音」と発音していたが音韻の変化により現在は「[pʷ] + 母音」となっている。
  11. これは実在の言語でいえば韓国語やビルマ語でみられる。
  12. は8母音説による再構
  13. *yは8母音説による再構
  14. これにより、例えばs音系でいえば/s/ [s]/sy/ [sʲ]/x/ [ɕ]の3つが対立する体系から、/s/ [s]/x/ [ɕ]の2つが対立する体系に移行した、ということである。
  15. 同様の変化は、実在の言語ではラテン語からルーマニア語にいたる音韻変化や、日本語鹿児島県枕崎方言などでも見られる。
  16. 日本語では、元は摩擦音を伴わず ti と発音していた「ち」が、発音の変化によって破擦音の tɕi に変化したが、外国語からの借用語の影響で「ティ」ti を再獲得しているが、それと同様の状況である。
  17. 更紗語において、二重母音として発音するか単なる母音連続として発音するかは、意味の弁別には影響しないため。なお、二重母音を含む音節は、基本的に2拍で発音される。
  18. 後置詞以外で「/ha/を表す更紗字」がある場合は、表記通りに /ha/ と読むことが原則であるし、逆に /a/ と読むべき更紗字は、後置詞以外であれば全て「/a/を表す更紗字」で書くことが原則である。
  19. 向格を表す後置詞は、「従来/ku/を表していた更紗字」+「/o/を表す更紗字の小書き」+「/re/を表す更紗字」の3文字で表記する。
  20. 閉音節を表す文字は「/N/を表す文字」と「/Q/を表す文字」の2種類しか存在しないため、/N/および/Q/以外については、子音のみを表記することができない。
  21. 更紗語の創作初期にあたる2020年は「両者の対立が現代でも残存している」という想定があったが、後の考察で「上代で合流している」という結論に至った。しかし辞書の綴り字は修正されなかったため、このような不合理な状況が残ったが、結果的には語源を区別する上で役立ったため修正しようという動きは見られない。
  22. 動詞を繰り返し表現することで主語が複数であること表すことができるため、直訳すると「木が生え生える。」となる。
  23. 連濁の場合はjiとなる
  24. 連濁の場合はbyaとなる
  25. 日本語名称は「頭(atama)一段」で、使われる母音がaに揃えられている。旧資料では「頂一段」や「上一段」とも。
  26. 日本語名称は「底(soko)一段」で、使われる母音がoに揃えられている。旧資料では「下一段」とも。
  27. 日本語には「ヤ行五段活用」は存在しない一方、「ワ行五段活用」は存在する。しかし更紗語には、どちらとも存在しない。
  28. 例えば、「生える」を意味する動詞の iyare の連用形(接続形)の iya は、「植物」という意味で使われる。
  29. 後置詞は必ず名詞の後ろに結びついて使われるため「母音に挟まれたhが脱落」という音韻変化の対象となり、発音が [ha] /ha/ から [a] /a/ に変化した。
  30. 日本語の場合にも、主格を表す「は」は実際には [wa] と発音するが、格助詞に限っては歴史的仮名遣いが残されており、( [wa] の音を表す「わ」ではなく)本来なら [ha] の音を表す「は」の字が使われているが、それの更紗語版と考えると分かりやすいだろう。
  31. 一方言か同語族の別言語か、は政治の問題である。

脚注

関連項目

外部リンク